こんにちは
矯正治療は、歯並びをきれいに整える優れた治療です。
いろいろなタイプの矯正治療法が開発されています。
そのひとつに表側矯正とよばれる矯正治療があります。
表側矯正のイメージとして、”滑舌が悪くなる””しゃべりにくくなる”というものがあるようです。
実際、表側矯正を受けるとしゃべりにくくなるものなのでしょうか。
今回は、表側矯正としゃべりにくさなどについてお話しします。
◆表側矯正とは
表側矯正とは、マルチブラケット法とよばれる矯正治療法のひとつです。
マルチブラケット法は、ブラケットとワイヤーを使った矯正治療です。
複数(マルチ)のブラケットを使うことから、このようによばれています。
具体的には、まず全ての歯の表面にブラケットという金具を装着します。
このブラケットには、中央部分にスロットという溝があります。
スロットに嵌め込むようにして弾力性のあるワイヤーを通します。
マルチブラケット法では、このワイヤーの働きがブラケットを通して歯に作用し、歯が移動します。
こうして歯を移動させて、理想的な歯並びにしていきます。
◆声のメカニズム
ヒトの発声のメカニズムについてご説明します。
ヒトは、まず肺から空気を吐き出します。
肺から出た空気、つまり呼気は、気道を通って声帯に届きます。
声帯には2枚のヒダがあります。
息をするだけのときは、左右のヒダは開いていて、呼気には当たりません。
声を出そうとすると、左右のヒダの間が狭まり、ヒダに呼気が当たります。
すると、ヒダが振動し、音が生み出されます。
声帯のヒダの振動の幅によって、呼気は高い音や低い音に変化しますが、この時点ではまだ声にはなっていません。
声帯で発生した音は、さらに出口を求めて進み、喉やお口、鼻に到達します。
すると、喉やお口、鼻の中で響きます。
余談ですが、風邪をひいたときに鼻声になるのは、音が響き渡る鼻がむくむからです。喉やお口、鼻の中で響いた音に、お口の形や容積、舌の形や位置の変化が加わることで、さまざまな声を作り出しています。
では、矯正治療を受けると”しゃべりにくくなる”というイメージは、どこからくるのでしょうか?
声を作り出すには、舌やお口、鼻が関係しています。
このことから、しゃべりにくいというイメージには、「矯正装置が舌にあたる」「矯正装置に頬や唇が当たって口が動かしにくくなる」などが関係していると思われます。
◆矯正装置と舌の動き
日本語の発音には種類がとてもたくさんありますが、矯正治療に影響しやすいとされているのは、『サ行』『タ行』『ナ行』『ラ行』の4音です。
これらの音の特徴は、舌の形や位置を変化させることで作り出しているという点にあります。
『サ行』の音は、舌を上に持ち上げてお口の中を狭くすることで作り出します。
上顎の前歯の裏側の歯肉の上を触っていただくと、凸凹としたところがあることに気づくと思います。
この部分を口蓋ヒダといいます。
『タ行』『ナ行』『ラ行』は、口蓋ヒダのあたりに舌先を当てることで作り出す音です。
矯正装置が舌の動きを邪魔することで、声が作り出しにくくなる、つまりしゃべりにくくなると考えられます。
◆矯正装置とお口の動き
アナウンサーなどがはっきりと話すために、お口を大きく動かすトレーニングをすることがあります。
確かにヒトの声が作り出されるとき、お口の形や容積の変化も関係しています。
これとは逆に腹話術師は、あまり口を動かすことなく、舌の動きをより細かくコントロールすることで、はっきりとした声を出しています。
これは、お口の形や容積も発声に確かに関係しているのですが、さほど強く関係しているわけではなさそうです。
したがって、矯正装置が頬や唇に当たってお口が動かしにくくなったとしても、実はそれほど発声には影響していないと考えられます。
◆表側矯正としゃべりにくさ
表側矯正の場合は、ブラケットやワイヤーなどの矯正装置は、すべて歯の表側につけられています。
発声に大きく関係する舌の動きについては、邪魔することはありません。
矯正装置を歯に装着すると、唇や頬に矯正装置があたり、違和感や痛みでしばらく話しにくくなるのは確かです。しかし、舌の動きはさほど影響を受けることはありません。
唇や頬への違和感や痛みもすぐに慣れます。
こうしたことから、表側矯正では、しゃべりにくくなるということは生じにくいとされています。
◆まとめ
今回は、表側矯正としゃべりにくさについてお話ししました。
ヒトの声は、声帯で振動させられた呼気の流れに、『舌の形や位置』『お口の形や容積』が変化が与えられることで作り出されています。
特に『舌の形や位置』の方が強く関係しています。表側矯正では、矯正装置がすべて歯の表側につけられることから、発声、発音に大きく関与する舌が矯正装置にあたることはほとんどありません。
このことから、表側矯正の矯正装置は舌の動きを邪魔しにくいため、表側矯正ではしゃべりにくいというデメリットを生じることは少なそうですね。